遊びやスポーツを通じて育む小学生の自己調整能力:感情や行動のコントロールを学ぶ保護者の関わり方
非認知能力は、学力テストなどでは測りにくい、内面的な力のことを指します。これには、目標に向かって頑張る力、他の人と協力する力、感情をコントロールする力などが含まれます。子供たちが将来、変化の多い社会を生き抜いていく上で、これらの非認知能力の重要性がますます注目されています。
しかし、「非認知能力を育てたい」と思っても、具体的に何をすれば良いのか分からず、悩んでいる保護者の方もいらっしゃるかもしれません。非認知能力は、特別な訓練というよりも、日々の経験、特に遊びやスポーツといった活動の中で自然と育まれる側面が大きいとされています。
この度、「遊びながら学ぶチカラ」では、スポーツや遊びを通じて育まれる非認知能力の一つである「自己調整能力」に焦点を当ててご紹介します。自己調整能力とは何か、それが子供の成長にどう関わるのか、そして遊びやスポーツの場でどのように育まれ、保護者はどのように関わることができるのかを解説いたします。
自己調整能力とは何か? 子供の成長における重要性
自己調整能力とは、自分の感情、思考、行動をコントロールし、目標達成や状況に適応するために調整する力のことです。簡単に言えば、「自分で自分を律する力」「状況に合わせて行動を切り替える力」「感情の波に乗りすぎず、冷静に対応する力」と言えるでしょう。
例えば、 * 「もっと遊びたいけれど、宿題の時間だからやめよう」と気持ちを切り替える * 友達に意地悪されても、衝動的に怒鳴り返さずに冷静に対応する * 苦手なことでも、すぐに諦めずに集中して取り組む * 誘惑に負けず、やるべきことを優先する
こうした行動は、自己調整能力によって支えられています。この能力は、学習への取り組み(集中力や計画性)、人間関係の構築(他者への配慮や衝動性のコントロール)、困難への対処(感情のコントロールや粘り強さ)など、子供の成長のあらゆる側面において重要な役割を果たします。
スポーツや遊びが自己調整能力を育む理由
スポーツや遊びは、子供が自然な形で自己調整能力を練習し、身につける絶好の機会に溢れています。具体的な場面を通して見てみましょう。
-
ルールの遵守: 多くのスポーツや遊びにはルールがあります。子供は「勝つためにはルールを守らなければならない」という目的のために、自分の衝動や欲望を抑え、ルールに従うことを学びます。これは、外部からの指示ではなく、自らの意思で行動をコントロールする練習になります。
- 例: 鬼ごっこで鬼にタッチされたら動いてはいけない、ドッジボールでラインを踏んだら外野に出る、ボードゲームで順番を待つ。
-
感情のコントロール: スポーツでは、思い通りにいかないことや、負ける経験が多くあります。遊びの中で友達と意見が対立することもあります。このような時、悔しさや怒り、苛立ちといったネガティブな感情が湧き上がります。これらの感情をそのままぶつけるのではなく、適切に表現したり、切り替えたりすることを学びます。
- 例: 試合に負けても泣きわめかずに相手を称える、友達ともめても冷静に話し合う、ミスをしてもすぐに諦めずに次のプレイに集中する。
-
目標に向けた行動の持続: スポーツで技術を習得するためや、遊びで何かを完成させるためには、継続的な努力が必要です。すぐに結果が出なくても、目標を意識して練習を続けたり、工夫を重ねたりする中で、集中力や忍耐力、そして困難にぶつかっても諦めずにやり抜く力が養われます。これも自己調整能力の一側面です。
- 例: 逆上がりができるようになるまで何度も練習する、複雑なブロック作品を完成させるために根気強く取り組む、ゲームで負けても勝つための戦略を考える。
-
状況判断と行動の切り替え: スポーツや遊びの状況は常に変化します。その変化に応じて、自分が取るべき行動を瞬時に判断し、切り替える必要があります。これは、目の前の状況に囚われず、目的のために最適な行動を選択する能力を育みます。
- 例: サッカーで相手の動きを見てパスかドリブルかを判断する、遊びの途中でルールを変える提案に対して柔軟に対応する。
このように、スポーツや遊びの場面には、子供たちが自己調整能力を自然と発揮し、育む機会が豊富に散りばめられています。
家庭でできる保護者の関わり方と声かけのヒント
非認知能力は、子供自身の内発的な動機や経験を通して育まれるものですが、保護者の適切な関わりがその育成を後押しします。日々の遊びやスポーツへの取り組みの中で、保護者ができる具体的な関わり方や声かけのヒントをご紹介します。
-
子供の感情に寄り添い、言葉にする手伝いをする: 子供が悔しがったり、怒ったり、楽しんだりしている時に、「〇〇だったね、つらかったね」「△△ができて嬉しかったね」などと、感じている感情に名前をつける手伝いをしてください。自分の感情を認識することは、それをコントロールするための第一歩です。
- 例:「負けて悔しかったね」「一生懸命頑張ったから疲れたね」
-
努力の過程や自己調整できた行動を具体的に褒める: 結果だけでなく、目標に向かって努力した過程や、感情や行動をコントロールできた特定の行動を具体的に褒めてください。「我慢できたね」「すぐに諦めずに続けたね」「友達に優しくできたね」といった声かけは、子供が自分の力を認識し、自信を持って次に繋げることに役立ちます。
- 例:「試合中、悔しそうだったけど、ちゃんと最後まで集中してプレイできたね」「すぐにやりたかっただろうに、順番を待てて偉かったね」
-
失敗や困難から学ぶ機会とする: うまくいかなかった時や、ルールを守れなかった時などは、感情的に叱るのではなく、「どうしてうまくいかなかったんだろう?」「次はどうしたら良いかな?」と、子供と一緒に考える時間を持ってください。失敗を振り返り、次に活かすプロセスそのものが、自己調整能力を高めます。
- 例:「ルールを守らなかったから、試合に出られなくなっちゃったね。どうすれば良かったかな?」「難しくてイライラしちゃったね。そんな時、どんな方法で気持ちを落ち着けられるかな?」
-
衝動的な行動を許容しつつ、代替案を提示する: 子供が衝動的に行動してしまうのは自然なことです。頭ごなしに否定するのではなく、「〇〇したかったんだね」と気持ちを受け止めつつ、「でも今は△△する時間だから、終わったら〇〇しようね」といったように、代替案や見通しを示すことで、我慢や切り替えを促します。
- 例:「公園で遊び足りないね。でも、もう帰る時間だから、お家でブロック遊びをしようか」
-
遊びや活動にメリハリをつける: 「ここまでやったら休憩ね」「これが終わったら次の遊びにしよう」など、時間や区切りを設けることは、集中と切り替えの練習になります。タイマーを使うなど、視覚的に分かりやすい工夫も有効です。
-
保護者自身がモデルとなる: 保護者自身が、感情的になりそうな時に落ち着いて対応したり、やるべきことを計画的にこなしたりする姿を見せることは、子供にとって最も身近で強力な学びとなります。
まとめ
非認知能力の一つである自己調整能力は、子供が自立し、社会に適応していく上で不可欠な力です。この力は、スポーツや遊びといった子供にとって身近で楽しい活動の中で、ルールを守る、感情をコントロールする、目標に向かって粘り強く取り組むといった経験を繰り返すことで自然と育まれていきます。
保護者の皆様は、子供の遊びやスポーツでの姿を温かく見守りながら、感情への共感や、努力・自己調整できた行動への具体的な声かけ、そして失敗からの学びを促す関わりを通して、子供の自己調整能力の育成をサポートすることができます。
焦らず、子供のペースに合わせて、日々の何気ない瞬間に隠された成長の機会を大切にしてください。遊びやスポーツの時間が、お子様の非認知能力を育む豊かな学びの場となることを願っております。