遊びやスポーツで育む小学生の『注意をコントロールする力』:集中と切り替えのヒント
非認知能力は、学力テストなどでは測りにくい、生きる上で大切な内面の力として近年注目されています。粘り強さ、協調性、自己肯定感など様々な力がありますが、その中でも「注意をコントロールする力」は、学習や日常生活、社会的な関わりにおいて非常に重要な役割を果たします。
この「注意をコントロールする力」とは、単に一つのことに集中する力だけではありません。必要な情報に注意を向け、不要な情報を排除する力に加え、状況に応じて素早く注意の対象を切り替える力も含みます。授業中に先生の話に集中したり、友達との会話に耳を傾けたり、遊んでいる最中に危険を察知して注意を向け直したりと、子供たちは日常の様々な場面でこの力を使っています。
保護者の皆様の中には、「うちの子、集中力がなくて…」「すぐに気が散ってしまう」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この「注意をコントロールする力」は、生まれつきのものではなく、遊びやスポーツといった日常の体験を通じて育んでいくことができる非認知能力の一つです。
スポーツや遊びが育む「注意のコントロール力」
なぜ、スポーツや遊びが注意をコントロールする力を育むのに適しているのでしょうか。それは、スポーツや遊びの多くの場面が、子供たちに自然とこの力を使う機会を与えてくれるからです。
1. 集中力を養う場面
- ルールの理解と遵守: 遊びやスポーツには必ずルールがあります。ルールを理解し、それに従って行動するためには、注意を集中させる必要があります。
- 特定の対象への集中: ボール、相手の動き、味方の声、ゴールなど、特定の対象に注意を向け続けることが求められます。例えば、サッカーでドリブルをする際にはボールに集中し、同時に顔を上げて周囲を視覚的に捉える必要があります。
- 自分の体の動きへの集中: 技の練習や、体のバランスを取る際には、自分の体の感覚や動きに意識を集中させます。
2. 注意の切り替え力を養う場面
- 状況の変化への対応: スポーツの試合や遊びの展開は常に変化します。相手が急に動いた、ボールが思わぬ方向に転がった、遊びのルールを少し変えよう、といった変化に対応するためには、それまで向けていた注意を素早く新しい状況に切り替える必要があります。
- 複数の情報源への注意配分: チームスポーツでは、自分の動きだけでなく、味方の位置、相手の位置、ボールの位置、コーチの声など、複数の情報に同時に気を配り、優先順位をつけながら注意を切り替えることが求められます。
- 役割の変更: 攻撃から守備へ、鬼ごっこで鬼役から逃げる側へなど、役割が変わる際には、必要な行動や注意の対象をスムーズに切り替える必要があります。
このように、スポーツや遊びの中では、子供たちは意識的にではなくても、必要に迫られて注意を集中させたり、切り替えたりする練習を繰り返しています。この繰り返しが、脳の関連領域を活性化させ、「注意をコントロールする力」を自然と磨いていくのです。
家庭でできるサポートと声かけのヒント
子供が遊びやスポーツを通じて注意をコントロールする力を育むために、保護者はどのようなサポートができるでしょうか。
1. 集中できる環境づくり
- 遊びや学習の際には、気が散るようなもの(テレビ、大量のおもちゃなど)を片付けるなど、物理的に集中しやすい環境を整えてあげましょう。
- 一つの活動に取り組む時間を区切るなど、集中を持続させるための工夫を一緒に考えてみるのも良いでしょう。
2. 過程や努力に焦点を当てる声かけ
- 結果だけでなく、子供が「これに集中しようとしたね」「あの時、すぐに切り替えて対応できたね」など、注意を向けた対象や、切り替えようと努力した過程に具体的に言及して褒めたり、認めたりしましょう。
- 「試合中、ずっとボールから目を離さなかったね、すごい集中力だったよ」「鬼ごっこでルールが変わった時、すぐに対応できていたね、切り替えが早くなったね」といった具体的な声かけが有効です。
3. 注意を促すヒントや問いかけ
- 指示を出すのではなく、「次はどこに注意したら良いかな?」「〇〇君の動きをよく見てごらん」「△△の音が聞こえたら、どうしようか?」など、子供自身が注意を向けるべき対象に気づくような問いかけをしてみましょう。
- 複数の指示を出す際は、「まず〇〇をして、次に△△だよ」のように順序立てて伝えるなど、子供が注意を配分しやすくなるように工夫しましょう。
4. 集中とリラックスのバランス
- 長時間集中し続けることは大人でも難しいものです。遊びやスポーツの合間に休憩を挟んだり、集中が必要な活動とそうでない活動を組み合わせたりして、集中とリラックスのバランスを意識しましょう。
- 「ちょっと休憩しようか」「次は気分を変えて、別の遊びをしてみようか」など、切り替えを促す声かけも有効です。
まとめ
子供の「注意をコントロールする力」(集中と切り替え)は、遊びやスポーツの多様な経験を通じて自然と育まれていきます。これらの活動は、子供たちが楽しみながら、自ら注意を管理する練習を積み重ねる絶好の機会となります。
保護者の皆様には、結果を求めるのではなく、子供が遊びやスポーツに取り組む過程でどのように注意を使い、どのように切り替えているのかを温かく見守っていただきたいと思います。そして、子供の小さな努力や成長を見つけたら、具体的な言葉でそれを伝えてあげてください。
遊びやスポーツにおける一つ一つの経験が、子供たちの「注意をコントロールする力」を確実に育み、やがて学校での学習や、将来社会に出た時に必要となる大切な土台となっていくことでしょう。焦らず、子供のペースに合わせて、日々の遊びやスポーツを大切にしていきましょう。