遊びやスポーツで育む小学生の主体性:子供の「やりたい」を引き出す保護者の関わり方
お子様の成長を見守る中で、「もっと自分で考えて動いてくれたら」「何かに興味を持って取り組んでくれたら」と感じることはありませんでしょうか。子供の主体性をどのように育めば良いのか、漠然とした悩みを抱える保護者の皆様もいらっしゃるかもしれません。
主体性とは、与えられたことだけでなく、自ら考え、判断し、行動する力のことです。この主体性は、将来の学習や仕事、人間関係など、あらゆる場面で子供たちが自分の人生を切り拓いていくための大切な非認知能力の一つとして注目されています。
では、この主体性を意図的に「教え込む」ことはできるのでしょうか。実は、子供は日々の「遊び」や「スポーツ」の中にこそ、主体性を自然と育むための多くのヒントが隠されています。今回は、遊びやスポーツが子供の主体性育成にどのように繋がるのか、そして保護者としてどのように関わることができるのかについて考えていきます。
非認知能力としての「主体性」とは
主体性とは、単に「勝手にやる」ということではありません。自分の意思や判断に基づいて行動し、その結果に対して責任を持つ力を含みます。子供の成長における主体性は、例えば以下のような姿として現れます。
- 遊びたいものや学びたいことについて、自分で選択する
- 遊びや活動のルールや方法を、友達や大人と協力しながら決める
- 目標達成のために、自分で練習方法や工夫を考える
- 困難な状況でも、諦めずに自分で解決策を見つけようとする
- 自分の役割や責任を理解し、最後までやり遂げようとする
このような主体性は、知能指数(IQ)のような測定可能な能力とは異なり、テストでは測りにくい内面的な特性であるため、「非認知能力」の一つとして位置づけられています。文部科学省の資料などでも、幼児期からの非認知能力の育成の重要性が指摘されており、主体性や自己肯定感、協調性などが挙げられています。
遊びやスポーツが主体性を育む具体的なシーン
遊びやスポーツの時間は、子供が自ら考え、決定し、行動する機会に満ちています。具体的なシーンを通して、主体性がどのように育まれるかを見ていきましょう。
1. 遊びのルールを自分たちで決めるとき
鬼ごっこやかくれんぼ、オリジナルのごっこ遊びなど、子供たちは遊びの中で自然と「どうやって遊ぶ?」と話し合い、ルールを決め始めます。
- 主体性の発揮: 自分のやりたいルールを提案する、友達の提案を聞いてより良い方法を考える、みんなが納得する形に意見をまとめる、という過程で、子供たちは自ら考え、交渉し、決定する主体性を発揮します。
- 保護者の関わり方: 子供たちがルールのことで意見が対立している場合でも、すぐに仲介に入るのではなく、まずは子供たち自身が話し合う様子を見守りましょう。「どうしたらみんなが楽しめるかな?」など、問いかけを促す程度に留めることで、子供たちは自分で解決策を見つけようとします。
2. 挑戦する目標を自分で設定するとき
スポーツの練習や、跳び箱、鉄棒などの公園での遊びで、「次はこれができるようになりたい」と自分で目標を立てる場面があります。
- 主体性の発揮: 自分の現状を把握し、「できるようになりたい技」や「勝ちたい試合」などを自分で設定することは、まさに自己決定に基づいた主体的な行動です。目標達成のために、自分で練習内容を考えたり、上手な人の真似をしたりと工夫する過程も主体性を育みます。
- 保護者の関わり方: 子供が自分で立てた目標に対して、「すごいね、どうやって練習してみる?」と具体的な行動に繋がるような声かけをしましょう。目標が高すぎて難航している場合は、「まずはここまでやってみようか?」と、小さなステップに分ける提案をすることも有効です。
3. チームの中で自分の役割を考え、行動するとき(チームスポーツ)
サッカーやバスケットボールなどのチームスポーツでは、個人技だけでなく、チーム全体の勝利のために自分がどう動くべきかを考える必要があります。
- 主体性の発揮: チームメイトと協力するために自分の役割(攻め、守り、声かけなど)を考え、実行することは、集団の中での主体性です。指示を待つだけでなく、状況を見て自分で判断し、チームのために行動する経験は、責任感や協調性といった他の非認知能力と共に主体性を育みます。
- 保護者の関わり方: 試合結果だけでなく、子供がチームの中でどのようなことを考え、行動したのかに焦点を当てて話を聞いてみましょう。「今日の試合で、自分で考えて動けたところはあった?」「チームのために〇〇な行動ができていたね」など、具体的な行動を認め、問いかけることで、内省を促し主体的な視点を養います。
4. 練習方法を工夫したり、壁にぶつかったときに乗り越えようとしたりするとき(個人スポーツ・遊び)
ピアノの練習で難しい箇所を繰り返し練習したり、逆上がりができなくて何度も挑戦したりする場面です。
- 主体性の発揮: 難しい課題に対して、誰かに言われるのではなく自分で練習方法を変えたり、上手くいかない原因を分析したりすることは、問題解決能力と結びついた主体性です。「どうしたらできるようになるかな?」と自問自答し、試行錯誤を繰り返す粘り強さも、主体的な取り組みから生まれます。
- 保護者の関わり方: 子供が壁にぶつかっている時、「こうしなさい」と答えを与えるのではなく、「何か困っている?」「どうすれば上手くいきそうか、一緒に考えてみようか」と寄り添う姿勢を見せましょう。子供自身が考え、工夫する過程を大切にし、その努力を認め励ますことが重要です。
家庭で実践できる具体的な関わり方のヒント
日々の家庭生活の中でも、子供の主体性を育むための関わり方はたくさんあります。
- 「どうしたい?」と問いかける: 子供の意見や選択を尊重する姿勢を見せましょう。「今日の服はどれにする?」「休みの日は何をして過ごしたい?」「夕ご飯のお手伝い、何からやってみる?」など、小さなことから自分で決めさせる機会を作ります。
- 選択肢を与える: 子供に何かを促すときに、一つの指示だけでなくいくつかの選択肢を提示してみましょう。「お片付け、おもちゃ箱から始める?それとも本棚から?」のように問いかけることで、子供は自分で選び、行動する主体性を働かせます。
- 子供の「やりたい」に耳を傾ける: 子供が「〇〇がやりたい」と提案してきたら、まずは最後まで話を聞きましょう。たとえすぐに叶えられない内容でも、「面白そうだね、どうやったらできるかな?」と一緒に考える姿勢を見せることで、子供は自分の興味や考えを大切にされると感じ、次の主体的な行動に繋がります。
- 「失敗しても大丈夫」という雰囲気を作る: 主体的な行動には、失敗がつきものです。失敗を強く叱責したり、過度に干渉したりせず、「失敗から何を学べるかな?」という視点を持てるような声かけをしましょう。安全な範囲であれば、子供自身が試行錯誤する過程を見守ることが重要です。
- 自分でできることを増やす: 自分で着替えをする、食事の準備を手伝う、持ち物の準備をするなど、年齢に応じた「自分でできること」を増やしていくことも主体性を育みます。成功体験を積み重ねることで、自信を持って次の行動に移れるようになります。
まとめ
子供の主体性は、特別な教育プログラムだけで育まれるものではありません。毎日の遊びやスポーツ、そして家庭での小さな関わりの中に、その芽を育むチャンスはたくさんあります。
保護者の皆様の役割は、子供に「主体性」を教え込むことではなく、子供が持つ内なる「やりたい」という気持ちや、自分で考え行動する力を「引き出す」「見守る」ことです。少しの意識と声かけで、子供たちは自ら考え、選択し、困難を乗り越える主体性を遊びやスポーツの中で自然と身につけていくことでしょう。
お子様の「自分で考えて行動する力」を信じ、寄り添いながら見守ることが、主体性という大切な非認知能力を育む第一歩となります。