遊びやスポーツで深める小学生の『自己理解』:自分の強み・弱みを知る経験と保護者のヒント
遊びやスポーツでの経験を通じて深まる『自己理解』とは
お子様の成長を見守る中で、「この子の得意なことは何だろう」「どんなことに興味があるのかな」と感じる瞬間があるかと存じます。同時に、「どうすればもっと自信を持てるようになるのだろう」「苦手なこととどう向き合っていけば良いのだろう」といった悩みをお持ちの保護者の皆様もいらっしゃるかもしれません。
子供たちが将来、社会で活躍し、自分らしい人生を歩むためには、学力だけでなく、様々な非認知能力が重要であると言われています。その非認知能力の土台ともなるのが、「自己理解」の力です。
自己理解とは、自分の得意なことや苦手なこと、好きなこと、嫌いなこと、そして自分の感情や思考のパターンなどを、深く理解する力のことです。小学生の時期は、様々な経験を通じて「自分とはどんな人間なのか」を知り始める大切な時期です。この時期に自己理解を深める経験をすることは、自己肯定感や主体性、他者との健全な関係構築など、多くの非認知能力の育成に繋がります。
そして、この自己理解を育む上で、スポーツや遊びは非常に有効な機会となります。体を動かし、友達と関わり、様々な課題に挑戦する中で、子供たちは自分自身について多くの発見をしていきます。
この記事では、スポーツや遊びがどのように自己理解の育成に繋がるのか、そして保護者の皆様が日々の生活の中でどのような関わりができるのかについて解説いたします。
なぜ小学生の『自己理解』が重要なのか
小学生は、家庭という限られた世界から一歩踏み出し、学校や習い事、地域など、より広い社会で他者と関わる機会が増えます。この時期に自己理解を深めることは、以下のような点で重要となります。
- 自己肯定感の土台となる: 自分の得意なことや良いところを知ることで、「自分にはできることがある」「自分は価値のある存在だ」という肯定的な感覚(自己肯定感)を育むことに繋がります。苦手なことやつまずきやすい点を理解することも、それを克服するための努力や、別の方法を試すことへの前向きな姿勢を育みます。
- 目標設定や行動選択に役立つ: 自分の興味や関心、得意・不得意を知ることで、「何を学びたいか」「どんなことに挑戦したいか」といった目標を自分で見つけやすくなります。また、自分に合った学習方法や課題への取り組み方を選択する上でも、自己理解は大切な指針となります。
- 感情との付き合い方を学ぶ: 自分がどんな時に嬉しくなるか、どんな時に悔しいと感じるか、緊張しやすい場面はどんな時かなど、感情の動きのパターンを理解することは、感情を適切にコントロールしたり、困難な状況でも前向きな気持ちを維持したりする自己調整能力を高める上で重要です。
- 他者との関係構築に繋がる: 自分自身を理解することで、相手との違いを受け入れやすくなったり、自分の気持ちや考えを適切に伝えたりすることができるようになります。これは、良好な人間関係を築く上で不可欠な力です。
このように、自己理解は子供たちが自分らしく生き、様々な困難を乗り越え、他者と協力していくための基盤となる力と言えます。
スポーツや遊びは自己理解を深める宝庫
スポーツや遊びの時間は、子供たちが意識せずとも自分自身と向き合い、様々な側面を発見できる貴重な機会です。具体的な経験と自己理解への繋がりを見ていきましょう。
- 挑戦と成功の経験:
- 「逆上がりができるようになった」「リレーで一番速く走れた」「難しいパズルを完成させた」といった成功体験は、「自分はこれが得意なんだ」「努力すればできるようになるんだ」という自信となり、自分の強みや可能性を認識することに繋がります。
- 失敗と挫折の経験:
- 「試合に負けてしまった」「練習してもなかなか上手くならない」「友達との遊びで意見がぶつかった」といった経験は、「こういう時はうまくいかないんだな」「これは苦手かもしれない」「悔しい気持ちになるんだな」といった感情や状況を伴います。これは、自分の弱みや課題、そして感情のパターンを理解する機会となります。失敗から立ち直る過程で、自分の心の動きを知ることも重要な自己理解です。
- 身体的な感覚と向き合う経験:
- 体を動かすことで、自分の体の得意な動き(バランス感覚が良い、足が速いなど)や苦手な動き(柔軟性がない、特定の動作が難しいなど)を知ることができます。また、疲労感や心地よさといった身体的な感覚を通じて、自分の身体的な特徴や状態を理解します。
- 他者との関わりの中での発見:
- チームメイトや遊び相手との関わりの中で、「自分はみんなをまとめるのが好きだな(リーダーシップの傾向)」「一人で集中するより、友達と一緒の方が楽しいな(協力の傾向)」「自分はすぐに諦めてしまうけど、友達は粘り強いな」といった、他者との比較を通じて自分の性格や傾向を知ることができます。自分の意見を伝えたり、友達の意見を聞いたりする中で、「自分はこういう考え方をするんだな」という価値観の片鱗に気づくこともあります。
- 役割を担う経験:
- ドッジボールで内野と外野の役割がある、鬼ごっこで鬼と逃げる側に分かれる、といった経験や、チームスポーツでのポジションなどを通じて、「自分はこういう役割が合っている」「こういう役割だと力を発揮できる」といった社会的な役割の中での自分を理解することができます。
このように、スポーツや遊びは、成功も失敗も、身体的な感覚も感情の動きも、そして他者との関係性もすべて包含した、多様な自己発見の機会を提供してくれます。
保護者ができる!家庭での具体的な関わり方
お子様がスポーツや遊びの経験を通じて自己理解を深めるために、保護者の皆様が日常の中でできる具体的な関わり方をご紹介します。
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「見る」のではなく「観る」:
- お子様が遊んでいる様子やスポーツに取り組む姿を、ただ眺めるのではなく、お子様の表情や体の動き、友達との関わり方などを注意深く「観る」意識を持つことが大切です。どんな時に嬉しそうか、難しそうか、誰とどんな風に関わっているかなど、具体的な様子を観察しましょう。
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結果だけでなく「プロセス」に焦点を当てる問いかけ:
- 「勝ったの?負けたの?」といった結果に関する問いかけだけでなく、「今日の練習(遊び)で一番楽しかったことは?」「どんなところが面白かった?」「挑戦してみてどうだった?」「難しかったことはあった?」「次にやってみたいことは?」など、過程や気持ちに寄り添う問いかけをしましょう。お子様が自分の経験を言葉にすることで、内省を促し、自己理解を深める手助けになります。問いかけに対する答えを急かしたり、誘導したりせず、お子様自身の言葉を引き出すように穏やかに問いかけましょう。
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共感と承認で安心感を育む:
- お子様が感じた気持ち(嬉しい、悔しい、疲れた、楽しかったなど)に共感し、「そうか、それは嬉しかったね」「負けて悔しかったんだね、その気持ち分かるよ」と、感情を受け止める言葉を伝えましょう。
- 結果に関わらず、お子様が頑張ったこと、努力したこと、挑戦したことを具体的に承認しましょう。「最後まで諦めずにボールを追いかけたね」「難しくても何度も挑戦していたね」「友達と協力して片付けができたね」など、具体的な行動を褒めることで、自己肯定感と共に「自分は努力できる人間だ」「協力できる人間だ」といった自己理解に繋がります。また、「〇〇君は、難しいことでも粘り強く取り組めるのがすごいね」「△△ちゃんは、周りの友達をよく見ているところが良いところだね」など、お子様の具体的な強みや良いところを言葉にして伝えることも効果的です。
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他者との比較はしない:
- お子様の自己理解は、あくまでお子様自身の成長や変化に焦点を当てることが重要です。「〇〇君はもっと上手だよ」「△△ちゃんはすぐにできたのに」といった他者との比較は、お子様の自己肯定感を損ない、自分自身を正しく理解する妨げになる可能性があります。過去のお子様自身と比較し、「前はできなかったこれができるようになったね」といった声かけを心がけましょう。
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自分で「選ぶ」機会を提供する:
- 週末の遊びは何をするか、どんな習い事をしてみたいかなど、お子様自身に選択する機会をできる範囲で提供しましょう。自分で選び、その結果を経験することは、「自分は何に興味があるのか」「何を楽しいと感じるのか」といった自己理解を深めることに繋がります。
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失敗を恐れずに挑戦できる環境づくり:
- 失敗しても大丈夫、間違えてもやり直せるといった、心理的に安全な環境を家庭で作りましょう。失敗から学ぶことの重要性を伝え、「失敗は悪いことじゃないよ」「どうすれば次はうまくいくか一緒に考えてみようか」といった前向きな声かけをすることで、お子様は失敗を恐れずに様々なことに挑戦し、その経験を通じて自分自身をより深く知ることができます。
まとめ
遊びやスポーツは、お子様が楽しみながら体を動かし、友達と関わる中で、自然と自己理解を深めていくための素晴らしい機会です。自分の得意なこと、苦手なこと、感情の動き、他者との関わり方などを様々な経験を通じて知ることは、お子様の自己肯定感を高め、将来の目標設定や困難への向き合い方など、様々な非認知能力の基盤となります。
保護者の皆様には、お子様の遊びやスポーツでの経験を、単なる「習い事」や「時間の過ごし方」として捉えるだけでなく、お子様が自分自身を発見し、理解していく大切なプロセスとして温かく見守っていただきたいと思います。結果だけでなくプロセスに目を向け、お子様の気持ちに寄り添い、具体的な行動や良いところを承認する関わりは、お子様が自分自身を肯定的に理解し、自信を持って成長していくための大きな力となるはずです。
日々の忙しい生活の中で、すべてを完璧に行う必要はありません。お子様との何気ない会話の中で、「今日一番楽しかったことは何?」と問いかけてみる、一緒に体を動かした後に「こんな動きが得意だね」と伝えてみる。そういった小さな関わりの積み重ねが、お子様の豊かな自己理解を育むことに繋がっていきます。
このサイト「遊びながら学ぶチカラ」では、今後もスポーツや遊びの中で育まれる非認知能力について、保護者の皆様にとって有益な情報を提供してまいります。お子様の成長を、ぜひ遊びやスポーツの視点からも見守ってみてください。